なんり小児科クリニック

福岡市東区のなんり小児科クリニックの公式サイトです。【院長】南里月美

ニュースレター2011年4月号:小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの接種再開について

【2011年4月より、小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンの接種が再開されます。】

小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンについて、3月4日以降、両ワクチンを含む同時接種後の死亡例が7例報告され、接種を一時的に見合わせることになっていましたが、接種と死亡の明確な因果関係は認められず同時接種による副作用の増加もないとして、厚生労働省は、4月1日から接種を再開する方針を決めました。

当院では、受付は4月1日(金)から接種再開は4月5日(火)からで、両ワクチンともに予約が必要です⇒予約なしでいつでも接種できます。
週末と月曜日は患者さんも多く、現在インフルエンザB型も流行っていますので、ワクチンを受けにきてウイルスをもらってしまったという結果にならないよう、混雑時間(夕方16時半以降)を避けて受診されることをお勧めします。尚、公費助成により無料で受けられる期間は、2012年3月31日までの1年間です。
 


【諸外国における小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの状況】
 
欧米ではヒブワクチン・肺炎球菌ワクチンともに10年以上前から認可され、同時接種が推奨されています。しかしながら、死亡例の報告がないわけではなく、肺炎球菌ワクチン(プレベナー)については、2000年2月~2007年2月までに全部で272件が報告されています。

大部分はアメリカでの210件、その他にフランス19件、ドイツ16件、カナダ6件、スペイン5件です。最も多い事象は、乳幼児突然死症候群(SIDS)97件36%で、その他の多くは、死因となる可能性のある既往・合併症(早産児40件、先天性心疾患4件、心房中隔欠損症3件、動脈開在症3件、無呼吸5件、気管支肺異形成症3件、小頭症2件、先天異常3件、成長障害3件など)で、大半の死亡はSIDSもしくは死因のない報告のない死亡または死因に寄与した有害事象の報告のない死亡であり、死亡に関連した関連した可能性のある基礎疾患を有していました。
アメリカの場合では、政府の諮問機関が詳細な調査をした結果、「このワクチンの安全性について問題はない」として、現在も定期接種として同時接種されています。



【 ワクチンを「接種するリスク」と「接種しないリスク」】

ワクチンは医薬品である以上、必ず副反応の問題が起こってきます。副作用のない薬が存在しないのと同様に、100%安全なワクチンというものも存在しないといえるでしょう。大切なのは、副反応のリスクのみに注目することではなく、ワクチンを「接種するリスク」と「接種しないリスク」を比較検討したうえで、そのワクチンの有用性を客観的に判断することです。


◆小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンを「接種しないリスク」とは?
 両ワクチンを接種しないことによる一番のリスクは、髄膜炎や敗血症などの重篤な病気にかかる可能性が高まることです。日本では毎年約200人の子どもが肺炎球菌による髄膜炎にかかり、10%前後が死亡、30~40%の方に重い後遺症が残ります。ヒブ髄膜炎は、毎年約500~600人の乳幼児がかかり、2%は死亡、約20%にけいれん発作、聴力障害や発達の遅れなど深刻な後遺症が残ります。また、髄膜炎は早期診断が難しく急速に病状が悪化する傾向があり、そのうえ従来はペニシリン系の抗生物質がよく効いていましたが、近年耐性菌が急激に増え、治療が難しくなっています。
 
 小児用肺炎球菌ワクチンは、現在約100 ヶ国で接種され、2000年から定期接種しているアメリカでは、肺炎球菌による重い感染症が98%減少しています。また、ヒブワクチンは120カ国以上で導入され、ヒブによる髄膜炎はほぼ根絶したといわれるほどの劇的な効果がみられています。


◆「接種するリスク」としての副反応とは?
 両ワクチンに共通する軽い副反応としては、発熱や注射した部位の腫れなどで、大抵は接種当日から数日以内に自然に治ります。また、ごく稀ですが痙攣、アナフィラキシーなどのアレルギー反応、血小板減少症などの重篤な副反応があらわれることがあります(アメリカ医学雑誌JAMA, Vol 292, No.14 )。
 
 今回、国内における7例の死亡報告を受け、日本では今年3月24日に専門家による会議がおこわなれ、死亡例の詳細な情報や国内外の疫学的情報を含めた包括的データが検証されました。
 その結果、1)報告された7例について、いずれもワクチン接種との明確な因果関係は認められないこと、2)諸外国における死亡報告の死因では、感染症や乳幼児突然死症候群が原因の大半を占めており、いずれもワクチンとの因果関係は明確ではないこと、3)国内で今回見られている死亡報告の頻度およびその内容からみて、諸外国で報告されている状況と大きな違いは見られず、国内でのワクチン接種の安全性に特別問題があるとは考えられないことなどから、特に安全上の懸念は認められないと判断されました。
 
 日本においては、肺炎球菌ワクチンもヒブワクチンも定期接種(受ける義務があるワクチン)ではなく、任意接種です。したがって、最終的に接種するかしないかは、保護者の方の判断にゆだねられます。
 当院としては、ワクチンを接種するリスクと接種しないリスクを考えた場合に、子どもの健康を守るためには接種したほうが良いと考えています。
 


【複数ワクチンの同時接種について】
 
厚生労働省によると、

①厚生労働省が実施した電子メールによる調査(866医療機関から回答)によると、平成23年2月の1か月間では、小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチンの接種のうち、何らかのワクチンとの同時接種が約75%以上を占めている。また、製造販売業者の調査でも、同様の傾向が見られている。
②製造販売業者の国内での市販後調査/臨床試験では、小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンそれぞれとDPTワクチンの同時接種、小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンの同時接種において、副反応発現率は単独接種に比べ高い傾向がある。一方、鹿児島大学の調査では、小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンの同時接種と単独接種の副反応発現率に有意差はない。
いずれの調査でも、同時接種により重篤な副反応の発現は増加していない。
③現時点までの国内での基礎疾患を有する患者に対する接種実績等からみても特に安全性上の懸念は報告されていない。
④欧米においては、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの同時接種において、局所副反応や発熱を増加させるが、重篤な副反応は単独接種と比べて差はみられないとする報告があるなど、同時接種の安全性については問題はないとされ、推奨されている。

以上からみて、今回調査した国内外のデータからは、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの同時接種における副反応の発現率は、単独接種に比べて高い傾向があるとする報告もあるが、重篤な副反応の増加は認められておらず、特に安全性上の懸念は認められないと判断されました。 

欧米においては、同時接種は短期間に効率的に予防効果を獲得できるため、一般的に広く行われている方法です。アメリカの市販後臨床試験における60,000例の小児の安全性観察研究によると、生後12カ月以下の初回接種として小児用肺炎球菌ワクチンを他の小児用ワクチンと同時接種した結果、その死亡率の上昇は認められませんでした。

日本においては、肺炎球菌・ヒブワクチンとも、同時接種でも単独接種でも可能であり、医師の判断のもと、保護者の方が希望される方法で行うことになりました。                                                       



引用・参照:
厚生労働省「小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの安全性について
小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチン接種の 再開についてのQ&A
小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの安全性の評価結果について
症例一覧表
小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチン接種の 一時見合わせについてのQ&A
ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンQ&A
国立感染症研究所感染症情報センター
Hibワクチン被接種者の健康状況と副反応調査
医薬品医療機器情報ホームページ
プレベナー水性懸濁皮下注に関する資料
JAMA, Vol 292, No.14